動物心理学入門
おすすめ度:★★★☆☆
動物心理学?と、興味をそそるタイトルだったので読んでみた。人間のように複雑な心理はないものの、動物にも心理はあり、その心理を生物学的、脳科学的にアプローチし、その結果からわかる動物の心理と行動の因果が簡潔にわかりやすくまとめられていて、非常に面白い本だった。100ページちょっとなので読みやすいし、内容も難しくないので、すぐ読み終わる。印象に残ったのは、雄型と雌型の脳の話。哺乳類では、個体が雌または雄の身体や行動特性をもつように発達する性分化という過程があり、この過程の最中で性ステロイドホルモンのアンドロゲンの分泌量によって、雌型から雄型の脳へ進化していくそうだ。そもそも個体の性染色体の基本型は雌で、胎児期に性ステロイドホルモンであるアンドロゲンの分泌量によって雄へ書き換わり、その後身体が生殖器など雌雄それぞれの特徴に発達し、出産前後の周生期には雄であれば雄型の脳の形成が進み、雌であれば基本型の雌型の脳が形成されるそう。雌型であってもアンドロゲンの分泌量によっては、雄型に近い脳へ分化してく可能性もあり、雄型であっで雌型に近い脳へ分化していく可能性もある。従って、胎児期の性の決定とは違い、性分化の過程では雌と雄を明確に線引きすることが難しいようだ。また、雌雄の特徴的な行動の発現には、雄はアンドロゲン、雌はエストロゲンの分泌が関わってくるそう。このような面白い話がわかりやすく書いてある。ただし、ページ数の割に値段が高い。
美しい国へ
おすすめ度:★★★★★
安倍元首相の政治家としての理念、思想、国家感が刻まれた著書。私が政治に興味を持ち始めたのはここ数年のことではあるが、特に安倍元首相が銃撃されたあの一件が大きい影響を及ぼしている。ちょうどその日は、沖縄を訪れていて、沖縄戦の戦跡巡りをしていた。そんな平和の尊さを感じている最中に起こった出来事だったので、非常にショックを受けた。それを機に安倍晋三という人間に興味を持ち、そして政治にも興味を持つようになった。現在、岸田政権の低迷が続き、党内ガバナンスが崩れているかのように見えるそんな中、安倍元首相の存在が如何に大きかったのかがわかった気がする。そんなこんなで安倍元首相の著書「美しい国へ」を読んでみた。前半は、安倍元首相の政治家としての素地についてや拉致問題や国家観が書かれており、後半は、日本の安全保障問題や社会保障、教育などについて書かれている。
冒頭は、安倍元首相が考える政治家像について書かれている。国家、国民のためならば批判を恐れず行動し、矢面に立っても、マスコミの偏向報道等に屈しない。そんな政治家を「闘う政治家」と言い、同調はするものの、批判を恐れ矢面には立とうとしない政治家を「闘わない政治家」と表現している。安倍元首相は政治家を見るときに「闘う政治家」か「闘わない政治家」を指標にしていたようだ。これは拉致問題について安倍元首相が声を上げたときの経験が元となっているのだそう。現在では、拉致問題については多くの励ましの声が上がるような世論になっているものの、当時この問題に対して声を上げたときは「右翼反動」というレッテル貼りを恐れ、賛同はするものの運動に参加する議員は少なかったようだ。拉致問題に関しては詳しく後述されているが、安倍元首相がまだ政治家になる前の秘書時代、父親である安倍晋太郎さんの事務所に、拉致被害者である有本恵子さんのご両親が相談に来たことから、拉致問題の存在を知ったそうで、彼が政治家になってから、この問題の解決に向けて尽力され、2002年の日朝首脳会談、そして2004年の拉致被害者の数人の方の帰国が実現したそうだ。そこでは拉致問題に対する思いや解決に向けてへの戦略などが書かれており、非常に感銘を受けた。
安倍晋三の原点についても書かれている。これを読んでいくと安倍元首相が幼少期、青年期の頃に、彼の国家観を形成する礎が築かれていたことがわかる。日米安保条約の改定を進め、安保闘争の渦中の中心にいた祖父岸信介元首相を間近に見ていた影響は大きかったのだろう。国家とは何か、日本とは何か、どうやって日本を守るのか、どうやって日本を良くするのか。そんなことを常に深く考え、政治家として活動されてきたのだと思った。
もちろん集団的自衛権、憲法9条の重要性についてや自衛隊のジレンマ、周辺国の脅威などについてにも書いてある。どれも現在の世界状況を見ると重要な論点であり、集団的自衛権については平和安全法制によって一部容認されたが、憲法改正の発議については未だ達成されていない。自衛隊活動の制限についても問題意識を強く持っておられ、国外において有事が起こった際に、自衛官が自分の命を犠牲にしなければ日本国民を守れないというジレンマについても書かれており、非常に共感した。そして、日々訓練や警備、スクランブルなどを行い、日本の領土、領海、領空の平和と安全を守っておられる自衛官や海上保安官に対し、感謝しなければならないと感じた。戦後78年間も戦争が起こっていないのだから、自衛隊はいらない、憲法9条のおかげ、といった理想主義者の安直で空疎な戯言や国会答弁で自衛官が扱っている装備品を人殺しの道具などと軽々しく発言するような国会議員はどうかと思う。
教育についても、日本に誇りを持てるような教育にしたい、ということが語られていた。自虐史観による歴史教育で、自国に対して誇りを持てないということに対し、強い懸念を抱かれていた。思い返してみると、学生の頃は日本人ということを意識したこともなければ、日本に誇りを感じることも全くなかった。特に私はゆとり世代で、且つ勉強に無関心だったこともあり、何とも間抜けな学生だった。従って、誇りなんてことを一度も感じたことがなかったのだが、今は日本を素晴らしい国だと思うようになったし、日本人としての誇りを持てるようになった。これは自分なりに歴史を学び、学問を学び、インターネットを通じて世界を垣間見ることができたからだと思っている。そういった意味で、教育というのは大切で、はやり国家を形成する国民が自国に対して誇りを持てず、無関心であることほど怖いものはない。そう感じた。各章で考えさせられることが多々あり、書きたいことはもっとあるのだが、きりがないのでここまでとしよう。
因みに、この著書には完全版があるのだが、私は古い方を買って読んでしまった。増補された完全版の方を買った方がいい。
岸田ビジョン
おすすめ度:★☆☆☆☆
現在、支持率が低迷し続けている岸田政権。とはいえ、頭ごなしに岸田政権を否定するのはよくないと思い、岸田首相が目指す国家像や方針・政策を知ろうと「岸田ビジョン」を手に取った。
この著書で政策について語られているのは1割程度。その中身の半分は、いわゆる日本的に言えばポピュリズム、大衆迎合的な傾向にある内容だ。岸田首相と言えば、「聞く力」という言葉をやたら連呼するのだが、ある意味その力がポピュリズムを加速させているように感じる。そもそも、この本のキャッチコピーである「分断から協調へ」という言葉が如何にもそのようなことを感じさせる。著書内でもやたらと「分断から協調へ」という言葉が出てくるのだが、そんなに日本って分断されていますか?と声を大にして言いたい。ただ左翼マスメディアが煽るために使ったキャッチーな言葉を、そのまま利用しているように感じるし、「分断」という言葉を安易に使うべきではないと思う。もちろん、社会保障制度の問題や憲法9条の改正などについても語られていて、賛同したい政策もあるのだが、今の状況を見ているとやる気があるようには見えない。リカレント教育や研究開発支援、NISAの拡充については個人的に良い政策だと思う。また、軍事費の引き上げについても賛成だ。しかし、「新しい資本主義とは何なのか?」という疑問が払拭されることはなかった。
政策以外の内容としては、核なき世界についてや岸田首相の生い立ちや外交経験について、そして最もこの著書で注力されていたのが過去の政局についての話だ。よく評論家から「政策より政局や人事が好き」と揶揄されているが、まさにヤクザの仁義と抗争のような政局の話が長々と述べられている。そして、そのままドライマティーニの会(加藤の乱で共に戦った戦友4人で語り合う会)について語り、締めに入る。首相就任後に出版された本に、こんなことを長々と語る意味があるのか。もっと、日本をどんな国にしたいのか、目指す国家像や理念をもっと語るべきではないかと思った。
また、ご自身の強みとして演説について語られており、「メリハリをつけ強調すべきところは比較的ゆっくり喋り、声を大きく且つ高めがいい。」などと書いてある。首相官邸の記者会見や国会答弁など見ていて、その強みが発揮されているとは思えない。原稿をそのまま読んでいるだけで、自分の言葉で語る、ということに欠けている。そんな印象を持っているのは私だけだろうか。
G7の閣僚陣やオバマ元大統領を広島へ招待し、核の悲惨さや核のない世界を訴える活動にご尽力されたこについて書かれており、そのことについては非常に感銘を受けた。そして、核を無くすこと訴えている日本がアメリカの核に守られている、この矛盾についても認識しておられ、戦略的に核を無くしていく道筋についても書いてある。実現できるかは甚だ疑問ではあるが、選挙区が広島なだけに核に対する思いが強いということは強く伝わった。
しかし、総じて言えることは、この著書名が「岸田ビジョン」なのにも関わらず、ビジョンが全く見えない。なるべく負の先入観を捨て、フラットに読もうとしたのだが、落胆してしまったというのが感想だ。特に、安倍元首相の「美しい国へ」を先に読んだこともあって、無駄にハードルを上げてしまったのだが、そのことを差し引いたとしても、この意見は変わらないだろう。所々でツッコミを入れながら読むと面白いので、ある意味おすすめの著書だ。
美しく、強く、成長する国へ
おすすめ度:★★★★★
自民党の保守派代表格である高市早苗さん。非常に頭脳明晰で記者会見などを聞いていても受け答えがしっかりしている印象。セキュリティクリアランスに関する法案など、日本の危機管理体制の改善に非常に尽力されている彼女は、「鉄の女」との異名を持つ英国の元首相、サッチャーさんのような代議士(ご本人も憧れているしい)。個人的に好きな政治家でもあるので、彼女の著書を読んでみた。
先に「岸田ビジョン」を読んでしまったので比較させてもらうが、政策について1割程度しか書かれていない「岸田ビジョン」に対し、「美しく、強く、成長する国へ」は9割が政策について書いてある。こちらの方が、ビジョンが見える著書だ(依怙贔屓なしで…)。日頃の生活で得たヒントを政策へ活かしたり、将来を見据えた戦略的な政策、今ある課題とそれに対する改善策についても多岐にわたって詳細に書かれており、とにかく高市早苗さんのビジョンが明確に記述されている。そして、国を如何にして守るか、ということに対して、強い責任感と危機感を持っておられることが随所に見られる。
冒頭は、日本の長きにわたる歴史や文化、礼節や公益を大切にする価値観、勤勉な国民性、それらによってもたらされる秩序、清潔さ、など日本の素晴らしさについて語られている。教育勅語を教えられて育った高市早苗さんは、誰よりも日本人としての誇りと自信を持っておられ、先人たちへの感謝の気持ちを大切にし、閣僚になっても靖国神社へ参拝されている。
冒頭、日本に対する思いについて語った後は、政策のことがびっしり書かれている。ただ、個々の政策の必要性やその背景について詳細に書かれているので、難しい話もあるものの読んでいて面白い。しかも、経済、医療体制、電力問題、半導体、AI、ロボット、経済安全保障、サイバーセキュリティ、漫画・アニメ、電波法、防災、保育・子育て、憲法など、ありとあらゆる分野の政策について書かれているのだからこれは感嘆する。他にも、高齢者の雪下ろし支援やゴミ出し支援など、痒い所に手が届くような政策も書かれている。そして、今では当たり前の内容だが、中国の会社法や国家情報法についても書かれている。ここら辺の内容は、ビジネスマンもちゃんと考えなければならない内容なので、読んでおくべきだろう。
とにかく政策通で、安倍元首相の方向性を踏襲する高市早苗さんに期待している自民党員、保守岩盤層も多いのではないだろうか。私もこの著書を読んで更に高市早苗さんを応援したくなった。次の自民党総裁選にはもちろん出馬されると思うが、自民党のイメージ改革の象徴として女性が起用されるのであれば、野田聖子さんや川上陽子さんなどではなく、高市早苗さんに是非頑張っていただきたい。この本を読んで、秋にあるであろう自民党総裁選に楽しもう。
記事を読んでいただきありがとうございました。