すぐわかる日本の仏教 歴史・人物・仏教体験
著書:大角 修
おすすめ度:★★★☆☆
仏教が伝来した6世紀の古墳時代から、どうやって日本国内に浸透していき、現代に至るまでどのように仏教が変容してきたのか。仏教の史実が簡単にまとめられている本。また、各宗派の成り立ちや本山、末寺も説明されており、寺院の写真もたくさんあるので、この本を持って各地域の寺を参るのも面白い。
元々、日本には各地域の有力氏族伝承の神話が存在しており、氏神を祀る、ある意味多神教の国であり、仏教を拒む廃仏論者も多く、崇仏論者と対立していたようだ。その背景には、疫病もあり、仏を祀れば氏神が怒り、仏を捨てれば災いが起こる、といった論争が行われていた。そんな中で、神仏習合という神と仏を同化させた特殊な構造になっていったのだが、この特殊な構造は日本独自で日本だけというわけでなく、仏教が生まれたインドでも同じような考え方があったそう。インドも多神教の国であり、神と仏の関係の在り方には試行錯誤した。そして、結論として神々も人と同じように迷い、苦しむ存在であり、仏の救いの対象であるとされた。こう聞くと、仏が神より優れているように聞こえるが、世を救う仏を祀る伽藍(僧侶が集まり修行する場所)が、その土地につく神とその力によって守護されるという二重構造によって、共存していったようだ。
そして、17世紀(江戸時代)には、キリスト教の布教を恐れ、キリスト教を禁教し、それを徹底すべく宗旨人別帳(しゅうしにんべつちょう)が作成され、家ごとに戸主を筆頭に家族構成が記され、そして全国津々浦々に配置されている寺が、キリシタンでないことを請け負う戸籍を証明する檀家制度が導入された。つまり、寺の掟を守らない場合には、戸籍を証明することができず、キリシタンとして訴えられたり、結婚などもできなくなることから、寺(菩提寺)に生殺与奪を握られる形となり、強制的に寺との結びつきが強まった。こうして寺に一定の権力が与えられた形になったわけだが、その掟は、寺に金品を納めることや盆、彼岸、先祖の命日などの仏事を行うこと、寺の修繕につとめることなど、物凄く理不尽極まりない掟、というわけでもない(信教の自由はないが…)。一方で、神社は一村一鎮守の体制となり、作物の実りを祝う祭事の場所、地域のお宮として、誕生や結婚などの生の儀礼に関わることが多くなり、寺院では葬式や法事など死の儀礼に関わることが多くなる。
19世紀(明治時代)には、維新政府は日本古来の神を国として祀ることを布告し、神仏分離や廃仏毀釈といった運動が盛んに起こり、多くの仏像や仏具が破壊された。そして、檀家制度の反発もあり、この運動に共鳴した人々も多かったようだが、それでも先祖の供養を軸に人々と密着していたため、寺院の存続の声も上がり、数年で収束したようだ。
こんな感じで、仏教の歴史を見てみるのも結構面白いものがある。他にも最澄、空海をはじめとする各宗派の宗祖についても面白いエピソードが書かれている。また、宗派によってお経や装飾も違うので、そこに着目して法事を行うとより一層価値ある法事になると思う。
正直、私は敬虔な仏教徒ではない(寧ろ無宗教でどちらかと言えば無神論者なのかもしれない)が、先祖への敬意と先祖が生きた証として、法事はなるべく欠かさないようにしている。また、仏教が日本が日本たる所以の一つであることは言うまでもなく、これからも仏教文化が根づいた国であってほしいと願わんばかりだ(同じく神道も)。辻褄の合わないこと(そして都合のいいこと)を言っているのかもしれないが、日本人とは結構そういうところがあるもんだ。まぁ、興味ある人は読んでみてくれ。
天才
著書:石原 慎太郎
おすすめ度:★★★★☆
希代の政治家、田中角栄の人生を石原慎太郎さんが記した一人称小説。私は平成生まれなので、田中角栄という人物についてはよく知らないのだが、私の地元鳥取1区選出の石破茂代議士は、よく「角栄先生」と呼び、その昔話なんかを聞いていると、田中角栄のことを師と仰いでいたんだな、ということがわかる。他にも、古参の政治家が彼の名前を口し、中には親しみを込めて「オヤジ」、「角さん」と呼んでいる政治家もおり、多くの政治家に影響を与えた人物だったのだろうと推察する。私が知っていることと言えば、「金権政治」と批判を受けたり、「ロッキード事件」により失墜したり、という話くらいなのだが、それでも田中角栄の功績を称える論評が多く散見される。この本は、そんな田中角栄がどんな人間だったのかがわかる小説だ。500円と安く、200ページほどなのですぐに読める。
小説なので当然ではあるが、田中角栄の人生はドラマに描かれてもいいような波乱万丈な人生と人情豊かな人間味のある人物で、最終学歴が高等小学校卒業(中央工学校の夜間部も卒業しているらしい)と学歴なくして土建屋から総理大臣にまで登り詰めた。歯に衣着せぬ発言とその強烈なキャラクターに加え、彼は人間心理というものをよく知り、人や組織を動かすのに長けていたようで、派閥の論理がものを言う中選挙区制時代に、政治家という魑魅魍魎を動かし、それまとめる絶対的なリーダーシップがあったようだ。そして、彼が描く日本のビジョンとそのための政策立案、その政策を前に進めるための実行力と行動力とその信念。何故、政治家をも魅了する政治家なのかが何となくわかる。しかし、その実行力の背景には、お金に纏わる話がついて回り、それが「金権政治」と言われる所以なのだろうが、個々の代議士の思惑、利害が絡み合い、更にはその集団間での派閥闘争がある中で、物事を円滑に進めるためにお金で障壁を取っ払う、というのは彼にとっては合理的な判断だったのだと、感じた。そして、そうした常識にとらわれないやり方でなければ、世襲でなく、学歴もない土建屋から、首相に成りあがることなどできないのだとも思った(当時は)。他にも色恋や家族の事情も書かれており、そこには他の政治家にはない波乱万丈な人間ドラマがあり、それもまた田中角栄という人間の魅力なのだろう。後、YouTubeで過去の田中角栄さんの映像を見たが、田中真紀子さんに似てる。話し方が(笑)
記事を読んでいただきありがとうございました。