一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 宗教編
著書:山﨑圭一
おすすめ度:★★★★★
「一度読んだら絶対に忘れないシリーズ」の宗教編。ゾロアスター教やバラモン教に始まり、古今東西様々な宗教が存在してきたわけだが、現代においても無宗教というは少数派である。宗教というのは、たくさん人間が共生するため、若しくは特定の目的を達成するために体系化された共通観念、神聖化された象徴を持った共同体、と言えるのだろうが、人間の歴史そのものだとも思うのだ。それに、単純に数億人、数十億の人間が1つの象徴を崇拝しているという事実だけでも凄い(宗派など異なることはあるが)。そういった意味で、宗教にはすごく関心があり、宗教関連の本も何冊か読んできた。
この本で紹介されている宗教は、アニミズムやトーテミズムなどの古代宗教から始まり、ゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教、マニ教、イスラム教、バラモン教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、シク教、仏教、儒教、道教、神道まで。各宗教(思想も含む)について成り立ちや戒律、特徴などがわかりやすく要約されている。もちろん1つの宗教であっても様々な宗派があるわけで、宗派についても大まかではあるが解説してある。これまで読んでた本の中で一番読みやすく、内容も面白いのでもう一度読みたくなる。また、自分の宗教感を考えるきっかけにもなる。
私は神社に参拝することもあるし、祭事も好きだ。また、法事も欠かさず行っている。その一方で強い信仰心はなく、自分は無宗教だと思っている。日本人であれば、このことは決して不思議ではなく、共感されることだと思うのだが、外国の人から不思議がられることは往々にしてある。また、信仰するものがないと白い目で見られることもある。やはり信仰心が全くないというのはちょっと冷淡な人間に映るのだろうか。そもそも祭事や法事を行っておいて、神道や仏教を信仰していないなんて矛盾している、と思われるのだろう。しかし、これらは宗教ではなく文化としての一面が大きく、生まれてからずっと身近にあるものであるから、信仰心とは関係のないこと、などだと思う。そう主張しても、信仰なしに祈祷したり弔いをするってどういうこと?、と言われるのだろう。まぁ、わからなくもない。確かに、日本において、宗教を信仰する、という言葉の捉え方が少し硬く、常日頃信仰心を強く持ち、欠かさず祈祷するような敬虔な気持ちを持たなければならない、という観念に縛られているような気もする。軽い気持ちで健康祈願したりや厄除けしたり、安産を祈願したり、商売繁栄を祈願したり、法要したりすることも立派な宗教行為であり、そこに深い意味や信仰心がなくとも神道や仏教を信仰している、ということを主張しても差し支えないのではないだろうか。そのようにも思う。なので、これからは外国の方から信仰している宗教を聞かれたら神道か仏教と答えることにした。まぁ、こんなことを考えながら読むことはないが、教養として宗教について学んでみるというは良いことではないかと思う。
イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章
おすすめ度:★★★★★
著書:イングランド銀行、翻訳:村井章子
金融・経済という小難しそうで敬遠されがちなテーマに対し、もっと身近で親しみやすくすること目的に、英国の中央銀行であるイングランド銀行がイギリス国民に向けて出版した著書。シンプル且つ丁寧で分かりやすく説明されており、経済学の入門書として素晴らしい1冊。これまで読んだ経済学に関する本の中で、最もわかりやすかった本ではないかと思う。食事、買い物、労働といった、普段の日常生活から例を挙げ、経済学に紐づけながら難しい用語を使わずに説明されているため、経済学に触れたことがない人でも読みやすい。
また、通貨の歴史や世界の金融・経済政策の評価なども書かれており、日銀のゼロ金利政策についても論述されている。他にも、一般的に「ハコモノ」と言われる日本の独自の用語が使われる公共施設についても論述されており結構面白かった。財政乗数を目安とし、適度に財政出動で政府支出を増やすことは景気刺激としては効果があるとされている。ただし、これに反論を唱える意見もあり、財政乗数も経済学者によってまちまちであるようだ。何より、何にどう使うかによって効果が変わるため、政治家の手腕によるところが大きい。今年の自民党総裁選では、緊縮財政派が多いようだが、緊縮財政派か積極財政派かを焦点に、総裁選を見ると面白いかもしれない。
そして、インフレについての感覚はやっぱり外国とは違うなぁ、と感じた。イギリスでは、毎年フレッド(イギリスで人気のお菓子)の値段が1つのインフレの目安になっているそうで、ほんの二、三十年前は10ペンス(1ポンド100ペンス)だったフレッドの価格が、徐々に値上がりし、2017年には30ペンスにまで跳ね上がったそうだ(2021年からは少々下がったそうで、現在の価格は不明)。日本だと”うまい棒”の価格が10円から30円になった感覚なのだろう。このようにイギリスでは(というか主要先進国には)、インフレ等によって価格が変動するというのは一般的な感覚であり、耐性がある(もちろん値上げが歓迎されているわけではない)。価格が変動するということは、現金の購買力が変動するということであり、消費行動にも影響を及ぼす。物価が上がることが通説となれば、将来値上がりする前に、今消費することがより合理的となり、それが経済成長を促し、賃金が上がるという好循環を生み出す。逆に、デフレで物価が下がるならば、消費せずに貯蓄に回して将来の消費に備えることの合理性が増し、消費は落ち込み経済成長が鈍化する。日本はインフレ率が低く、賃金上昇率も低いが、一方で購買力という点では変動がなく、そういった意味で日本はイギリスより暮らしやすいとされている。かといって、それが良いわけではなく、経済成長しないことには相対的に国が弱くなっていく。イングランド銀行の見解では、一般的に2%の緩やかなインフレが望ましいとされており、日銀もそのような物価安定目標を掲げている。2%という数字が経済界の通念なのだろう。このように、意外にもイングランド銀行が日本について論評しているところがちょくちょくあり、イギリスから見た日本の評価が見れて面白かった。
政治家の覚悟
おすすめ度:★★★☆☆
著書:菅義偉
今年の9月の自民党総裁選で麻生太郎元首相と並んでキングメーカーと言われている菅義偉元首相。無派閥ではあるが、多くの議員に慕われており、菅元首相の意向は自民党総裁選に大きな影響を及ぼす。報道によれば小泉進次郎代議士支持に傾斜とのことだそうだ。個人的には人柄も含め、結構好きな政治家で、安倍元首相の弔辞では、言葉の端々に菅さんの人間性が表れていて、その心のこもった言葉に非常に感動した。
この著書は、菅さんの政治家としての信念と実績、リーダシップの高さがわかる著書。省庁の縦割りによる非効率な行政改革や前例主義・慣例主義で旧態依然とした官僚に対し、政治家としての覚悟を示し、責任を一手に引き受け、彼らを動かすリーダシップ。国民目線に立って、おかしいと思ったことを検討課題として挙げ、それをすぐ政策に繋げる実行力。その中には、ふるさと納税や携帯電話のSIMロック解除、携帯料金やNHKの受信料の値下げなど、多くの国民が恩恵を受けている政策がいくつもある。これらは応益負担・負担分任の原則や民間企業への政府介入による批判などの理由で、政治家といえどもなかなか切り込めない領域であるものの、それが本来政治家の仕事であるのだと覚悟を持って切り込んでいき、官僚とも侃侃諤諤の議論を重ね、政策を実現されたそうだ。個人的には、携帯電話業界の改革が非常に嬉しかった。
他にも、渋滞緩和のための迂回路を無駄に建設するのでなく、時間帯によって高速道路の料金を変えることで高速道路の利用を促進し渋滞を緩和するよう国交省に切り込んでいったり、用途によってダムの所轄省庁が異なり縦割りになっていたものを、放水を行い災害を未然に防げるよう一定の条件下に限り国交省が一元管理するようにしたりと、目立たない改革も行っている。
当たり前のことではあるがこの著書を読んで、政治によって世の中が変わる、ということを感じた。まぁ、これは政治家の本を読むといつも感じる。政治では何も変わらないと言う人もいるが、それは自分の生活しか見ていないような気がする。それはそれで当たり前なのだが、世の中をよく見てみると結構変わっているし、もうちょっと変わっているところを見つける努力もした方がいいのではないだろうか、と思う。私は、たまに内閣法制局のWebサイトを見て、提出された法律案を見たりする。すべて見ることはできないが、そこに内閣が打ち出す施策が出されているのだから、自分の身の回りに関連する法律案だけでも見て、自分なりに評価すればいいと思う。特に今は著書以外にもSNSやYoutubeなどで政治家の発信を見ることができるので、それを見るだけでも結構政治が面白くなったりする。でも、やっぱり曲解することがないので著書がいい。自分で調べて政治家を評価する、という癖をつけ、大衆メディアに扇動されるだけの浅慮な愚人から抜け出そう。
記事を読んでいただきありがとうございました。